第42回日本分子生物学会年会
マリンメッセ福岡
2019年12月03日
1LBA-004
ポスター発表

色素性乾皮症患者由来ERCC2欠損細胞における内在性遺伝子のレトロトランスポジション
Frequent retrotransposition of endogenous genes in ERCC2-deficient cells derived from a patient with xeroderma pigmentosum

 
青砥 早希1, 豊田 雅士2, 梅澤 明弘3, 岡村 浩司4
1成育医療セ・メディカルゲノム, 2都健康長寿医療セ・老年病態, 3成育医療セ・再生医療セ, 4成育医療セ・システム医学
 
色素性乾皮症は欧米と比べ日本で高い頻度で見られる常染色体劣性の遺伝性疾患であり、紫外線に過敏で、多くの色素斑や乾燥した皮膚症状を示し、若年で皮膚がんを発症するという特徴を持つ。DNA修復機構の一つ、ヌクレオチド除去修復酵素に遺伝的な異常があることで発症する。ヌクレオチド除去修復には多数の遺伝子が関与するため、どの遺伝子に病的変異が生ずるかによって色素性乾皮症は相補性群AからG、およびVの8群に分類される。本研究ではC群と診断された日本人男性患者に由来する線維芽細胞株XP40OSを用い、その原因変異の特定と修復機能低下のゲノムへの影響を調べるため、XP40OSからiPS細胞株を樹立した。この疾患iPS細胞株は遺伝的にモノクローナルな細胞集団であるため、全エクソーム解析による親株細胞とのゲノム配列比較により体細胞変異を容易に検出できるという特徴がある。原因変異の特定の結果、本細胞株にはC群の原因遺伝子XPCには病的変異が認められず、その代わりD群の原因遺伝子であるERCC2に、スプライシング部位を含む23塩基の欠失とミスセンス変異の2つの変異があり、複合ヘテロ接合性変異であることがわかった。また、体細胞変異の数と傾向を調べたところ、より重篤な症状を示すA群に比べ、一塩基置換、特にダイピリミジンに見られる変異は少なかった。その一方、XP40OS-iPS細胞株は他群の患者由来iPS細胞株に比べ、内在性遺伝子のレトロトランスポジションが多く観察された。遺伝子のレトロトランスポジションは、遺伝子重複機構の一つとしてよく研究されている。レトロトランスポゾンLINE-1等のヒト内在性逆転写酵素を利用して発生すると考えられており、動植物ゲノムにおいてはその多くは偽遺伝子として痕跡を残している。逆転写酵素はレトロウイルスが感染する際に外来性にも発現することを考えると、ERCC2はヌクレオチド除去修復以外にレトロウイルスやトランスポゾン等に由来するDNA断片の不適切なゲノムへの挿入を防ぐ機能も有する可能性が示唆された。