第42回日本分子生物学会年会
福岡サンパレスホテル&ホール
2019年12月05日
3AW-18-5
口頭発表

染色体間相互作用を介した細胞系列特異的Tead4発現制御
An inter-chromosomal enhancer-promoter interaction regulating the cell lineage-specific Tead4 expression

 
冨川 順子1, 高田 修治2, 岡村 浩司2, 阿久津 英憲3, 田中 智4, 秦 健一郎1, 中林 一彦1
1成育医療セ・周産期病態, 2成育医療セ・システム医学, 3成育医療セ・生殖医療, 4東大・院農・応用動物
 
DNAのメチル化、ヒストン修飾に代表されるエピゲノムは、クロマチン構造のダイナミックな変化と遺伝子の発現調節とを結び付けている。初期発生過程において劇的に、また不可逆的に分かれる胚体系列と胚体外系列細胞では、クロマチン構造を含む強力なエピゲノム変化が起きていることは間違いない。私達は、マウス胚盤胞の発生や胚体外系列細胞の分化で重要な役割を担うTead4遺伝子に着目し、Inner cell mass (ICM) 側のモデルとしてマウスEmbryonic stem (ES) 細胞を、Trophectoderm (TE) 側のモデルとしてマウスTrophoblast stem (TS) 細胞を用い、Tead4遺伝子のプロモーターと空間的に近接するゲノム領域をCircularized Chromosome Conformation Capture (4C) 法を用いて網羅的に探索した。その結果、Tead4プロモーターは、二つの細胞間で異なるゲノム高次構造を構築していることが示唆された。Tead4プロモーターに近接する約30の領域についてTead4プロモーターに対するエンハンサー活性をルシフェラーゼアッセイで検証し、TS細胞においてのみ強いエンハンサー活性を示す5つの領域を同定した。これらのTS細胞特異的エンハンサーは初期発生過程における胚体外系列でのTead4強発現に関与する可能性が高いと考え、各領域を欠損したマウス系統をゲノム編集技術により樹立した。マウス5系統いずれにおいても胚盤胞の正常な形成が認められたが、1系統においては胚盤胞におけるTead4発現が野生型に比べて60%程度に低下した。このエンハンサー領域は19番染色体に位置し、Tead4遺伝子は6番染色体に位置する。RNAシークエンス解析の結果、このエンハンサー周辺数Mbの領域において、エンハンサーの欠損によって発現に変化があった遺伝子は見られなかった。これらのことから、初期発生過程におけるTEでのTead4高レベル発現の達成には、この19番染色体エンハンサー領域とTead4プロモーターとの染色体間相互作用が必要であることが示唆された。