第26回日本分子生物学会年会
神戸国際展示場
2003年12月11日
O2A-2
口頭発表

インプリント遺伝子とタンデムリピート構造との関連性
Comparative genomics to examine a role for tandem repeats in genomic imprinting
 
岡村 浩司1, 榊 佳之1,2, 伊藤 隆司3,4
1東大・医科研, 2理研・ゲノム科学総研セ, 3東大・新領域, 4金沢大・がん研
 
【緒言】哺乳類のインプリント遺伝子近傍には、しばしばタンデムリピートに富むゲノム領域が認められ、メチル化状態がいずれの親に由来するかによって異なっおり、インプリンティングの成立・維持に重要な役割を担っていると考えられている。その一方、ターゲティングやトランスジェニックマウスを用いた実験からは、関わりを否定する報告もされている。本研究室で単離された父性発現するマウスインプリント遺伝子Impactは、このような構造をイントロン1内に持ち、母性アレルは高メチル化、父性アレルは低メチル化状態にある。しかし、インプリンティングを受けないヒトホモログはリピート構造を欠き、イントロン1の塩基配列はマウスとは大きく異なる。このゲノム構造とアレル別発現制御が進化的にどの種で保存されているかを調べることは、リピートとインプリンティングとの関わりを明確にする上でとても興味深い。
【方法】マウスおよびヒト遺伝子のエクソン1と2の配列からプライマーを設計し、ラット、ウサギ、イヌ、ブタ、クモザルなどのゲノムを鋳型にPCRを行い、各種イントロン1の構造を決定した。またラットとウサギについては系統間交雑によりアレルの親由来を区別し、発現解析を行った。
【結果】調べた13種全ての哺乳類ゲノムDNAから同一のプライマー対でImpactイントロン1を単離することができた。その構造は、約2kbの長さでエクソン2側にCpGアイランドを持つ型と、約1kbでエクソン1側にCpGアイランドを持つ型の2つに分類され、両者に相同性は認められなかった。前者に分類されたのはマウスとラットのみで、特徴的なタンデムリピートはラットでも保存されていたが、後者に分類されたウサギなど他の11種にリピート構造は見つからなかった。しかしラットだけでなく、リピート構造を欠くウサギも、マウスと同様に父性アレルが排他的に発現していた。
【考察】リピート構造を欠くウサギImpactがインプリンティングを受けることが示され、そのような制御との関与が指摘されていたタンデムリピート構造は、必ずしも必要でないことが示唆された。