第31回日本分子生物学会年会・第81回日本生化学会大会 合同大会
神戸ポートピアホテル/ワールド記念ホール
2008年12月09日
1T17-8/1P-1321
口頭発表/ポスター発表

レトロ転移による新規プロモータ生成
Retrotransposition as a source of new promoters
 
岡村 浩司1,2, 中井 謙太1,2
1東大・医科研・ヒトゲノム, 2JST・BIRD
 
レトロトランスポゾンに限らずレトロ転移が通常の遺伝子に対しても起こることは、ゲノム中にプロセス型偽遺伝子が多く存在する事実からも明らかである。 哺乳類では、転写産物である一本鎖RNAがLINE-1などから供給される逆転写酵素によりDNAに変換され、修復など何らかの機構により二本鎖DNA、つまりゲノムにランダムに組み込まれると考えられる。 このような遺伝子はプロモータを持たないため、分子進化の過程で偽遺伝子になると考えられてきたが、最近の研究によって、そのいくつかは転写活性を持つことが示されており、レトロ転移遺伝子がいかにプロモータを獲得したかを調べることは、遺伝子発現制御領域の進化を探る上で重要な手がかりを与えると思われる。 そこで本研究では、ヒトのイントロンを持たないプロセス型レトロ転移遺伝子のうち、転写活性を持つ遺伝子のみに着目し、複製元のイントロンを持つ遺伝子と比較ゲノム解析を行うことで、新規プロモータ生成機構を考察した。 本研究室で構築された転写開始点データベースDBTSSを利用して、互いに転写活性を持つ複製元およびレトロ転移遺伝子29対を同定し、両プロモータ領域のゲノム配列を比較したところ、半数以上の16対で、従来からのレトロ転移の概念に反し、プロモータ領域の大部分が翻訳領域とともに転移している事実が明らかとなった。 その16複製元遺伝子のプロモータ領域は、どれもCpGアイランドを成して転写開始点が特定の場所に偏らず、数百塩基対の範囲に渡って分散しており、転写制御領域のレトロ複製は、その分散した転写開始点のうち上流域に存在するものからの転写産物が逆転写、さらにゲノムへ挿入されることによって起こったと考えられる。 この仮説をさらに発展、一般化させると、転写開始点の散在が、プロモータ自体にレトロ転移活性を与えていると考察される。 実際、ヒトゲノム中にこのような機構で別な遺伝子のイントロン内に生成した選択的プロモータがいくつか見つかり、レトロ転移による新規プロモータ生成を裏付けている。