第25回日本分子生物学会年会
パシフィコ横浜
2002年12月14日
2P-0090
ポスター発表

インプリント遺伝子マウスImpactの染色体上近傍遺伝子のアレル別発現解析
Allelic expression analyses of neighbors of the mouse imprinted gene Impact
 
岡村 浩司1, 萩原-竹内 百合子1, 榊 佳之1,2, 伊藤 隆司3
1東大・医科研・ヒトゲノム, 2理研・ゲノム科学総研セ, 3金大・がん研
 
【緒言】哺乳類のインプリント遺伝子はしばしば染色体上でクラスターを構成し、ドメインとして独特な発現制御を受けると考えられており、マウス第7番染色体を筆頭に、分子機構の解明を目指して研究が進められている。 その一方、第18番染色体には父性発現インプリント遺伝子Impactがマップされているのみで、クラスター構造を成しているかどうか明らかでない。 今回、全貌が見えつつあるマウスのゲノム情報を利用し、対応するヒトの領域と比較しながら、Impact/IMPACT周辺遺伝子のアレル別発現解析を行った。
【方法】B6系統および、その亜種にあたるJF系統のSNPを利用し、それら相互交雑マウスのmRNAからイントロンを挟むRT-PCRを行い、ダイレクトシークエンシングとRFLPにより発現を調べた。 ヒトに関しては、成人末梢血のゲノムおよびmRNAを用いて解析を行った。
【結果】インプリンティングを受けないヒトIMPACTの7kb下流には同じ向きに遺伝子HRH4、29kb上流には逆向きにOSBPL1Aが存在する。 これらの遺伝子は末梢血でも発現しており、SNPが見つかった前者1例、後者2例について調べたところ、両遺伝子とも両アレル性に発現していた。 次にこれらのマウスホモログHrh4およびOsbpl1aを同定し、Impactの近傍遺伝子であることを確認してから発現解析を行ったところ、ヒト遺伝子と同じく両アレル性であることがわかった。 最近になってマウスの物理地図が完成し、ImpactOsbpl1aの間に、LOC211564と名付けられたOSBPL1Aに似た転写産物があることがいくつかのESTにより示唆されている。 この転写産物はOsbpl1aのsplicing variantの可能性もあるが同じ解析を行ったところ、基本的に両アレル性であると思われるものの、多くの個体で父性アレルが母性アレルに対してやや優勢的に発現する傾向が認められた。 この傾向はB6の代わりにICRを用いた相互交雑マウスでも確認された。
【考察】マウスImpactとhead-to-headの位置関係で約10kb上流にある LOC211564が示す父性アレルの優勢発現傾向は、Impactプロモーター領域のアレルによるクロマチン構造の差違を反映している可能性がある。 孤立型インプリント遺伝子も距離によっては近傍遺伝子の発現に多少の影響を及ぼす可能性が示唆された。