第32回日本分子生物学会年会
パシフィコ横浜
2009年12月09日
1P-0103
ポスター発表

哺乳類に見られるグローバルなメチル化パターンの起源
On the origin of global DNA methylation patterns in vertabreates
 
松本 和晃1,2, 岡村 浩司1, 中井 謙太1,3
1東大・医科研・ヒトゲノム, 2早大・理工・電生, 3JST・BIRD
 
ゲノムDNAのメチル化は哺乳類から魚類までに限らず、ホヤ、ナメクジウオのような原索動物、さらには棘皮動物であるウニにも見られ、遺伝子発現制御やゲノムの安定性などに重要な役割を果たしていると考えられている。しかし脊椎動物と無脊椎動物との間でグローバルなメチル化パターンに大きな違いがある事が指摘され、哺乳類ではCpGアイランドを除いてほとんどの領域がメチル化を受けているのに対し、無脊椎動物であるホヤではメチル化を受ける領域と免れる領域が幅広い範囲で半々ずつ見られる事が知られている。また、局所的なメチル化状態はCpGの出現頻度により推定が可能で、哺乳類で知られているCpGアイランドの同定のみでなく、興味深い事に無脊椎動物であるホヤにおいてもCpGの出現頻度からメチル化、非メチル化領域を大まかに推定する事が出来る。しかしながら、従来の研究において脊椎動物と無脊椎動物とのメチル化は別のものと考えられているため、統一された評価基準が用いられていない。そこで本研究ではゲノムワイドなメチル化パターンの程度を多種のゲノムで比較するイン・シリコ解析法を提案する事で、エピジェネティクな変化の流れを追い、両グループを分ける明確な境界が見られるのかを調べた。その結果、新口動物であるウニ、ナメクジウオ、ホヤ、魚類、哺乳類において、進化系統に沿ったメチル化パターンの段階的な変化が見られ、進化におけるエピジェネティックな変化を反映した解析法である事が示された。さらにこの手法を、6種の魚ゲノムに当てはめた所、無脊椎動物の性質に近い種も見られた。以上の事から、現在よく知られているマウスやヒトのメチル化パターンは初期脊椎動物において突然獲得されたというよりも、むしろ無脊椎動物の断片的なメチル化から徐々に拡大、維持された事により確立された可能性が示唆された。本研究は新しいバイオインフォマティクスの手法を導入することにより、今まであまり手が付けられていなかったエピジェネティックな分子進化に新たな知見を与えることができた。