第39回日本分子生物学会年会
パシフィコ横浜
2016年l1月30日
1PS19-6
口頭発表

クロマチン高次構造に基づいた細胞系列特異的エンハンサーの同定
Exploring the cell line-specific enhancers based on chromatin conformation

 
冨川 順子1, 岡村 浩司2, 阿久津 英憲3, 田中 智4, 秦 健一郎1, 中林 一彦1
1成育医療セ・周産期病態, 2成育医療セ・システム医学, 3成育医療セ・生殖医療, 4東大・院農・応用動物
 
 あらゆる細胞の運命決定に際しゲノムに集約された遺伝情報がどのように取捨選択され機能発現にいたるのか、その本質ともいえるエピゲノム情報の取得は近年のゲノム解析技術の発展により容易になったものの、得られた膨大な配列データから、実際にどのゲノム領域(シスエレメント)がどの遺伝子を標的とし、どのようにしてその転写を制御しているのか、その依存関係を見出すことは未だ難しい。 私達は、発生の最も初期に分かれる胎児側細胞系列と胎盤側細胞系列について、それぞれのモデルとなるマウス胚性幹(ES)細胞とマウス栄養膜幹(TS)細胞とをFormaldehyde-Assisted Isolation of Regulatory Elements (FAIRE)-seq法を用いて比較し、TS細胞では、転写制御領域と考えられるオープンクロマチン領域が、非プロモーター領域を中心にES細胞の2倍近い33024カ所分布していることを見出した。これらの領域ではH3K4モノメチル化修飾のピークが形成されることから、TS細胞でのみ検出されたオープンクロマチン領域の多くがエンハンサーとして機能することが示唆された。FAIRE-seq により網羅したオープンクロマチン領域のなかから、胚体外系列の発生に必須でありその起点とも考えられているTead4遺伝子のプロモーター領域と空間的に近接するゲノム領域をCircularized Chromosome Conformation Capture(4C)法との重ね合わせ解析により抽出し、in vitroプロモーターアッセイによりTead4エンハンサーとしての機能を有する領域を、プロモーターと同一染色体上および異なる染色体上に複数領域同定した。これらは ES 細胞においてはエンハンサー活性を示さなかったことから、TS 細胞すなわち胚体外系列特異的なエンハンサーであることが示唆された。Tead4遺伝子とこれらのエンハンサー部位との染色体間相互作用が胚体外系列細胞の発生、分化においてどのような役割を果たすのか、現在解析を進めている。